魅惑のヘンタイバイク、YAMAHA SR400

なぜ世の中にヤマハSRというバイクのことを愛してやまないヘンタイさんが増殖するのか、分析してみました。

1.造形美にとらわれたヘンタイ

SRと言えば、真っ先に浮かぶのが造形美です。人間には一目惚れしたことがないけど、SRには一目惚れしてしまった、という人も大量に生み出してしまった、罪深きSRの造形美。なぜ人はSRに惚れてしまうのか、細部を分析します。

(1)フォルムの美しさ

まず全体のフォルムですが、その前に、デザイン用語の「黄金比」について軽く紹介します。黄金比とは、およそ1:1.618、整数比にしておよそ5:8ですが、この比率は人間が時代を超えて普遍的に美しいと感じるバランスです。エジプトのピラミッドフランスの凱旋門ミロのビーナスレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザなど、アート作品や建築物など、様々なものに使われています。

黄金比

黄金比

この黄金比長方形を、SR400の写真に重ねてみましょう。ほら、ジャストフィット。タイヤの前後とミラー先端までの高さが、完璧な黄金比で構成されています。

SR400と黄金比

SR400と黄金比

これだけではありません。黄金比の長方形は、正方形で区切っていくとフィボナッチ数列の螺旋、黄金螺旋が描かれます。この黄金螺旋は、巻き貝やひまわりの種台風の雲に至るまで、自然界に存在しています。

フィボナッチ数列の螺旋

フィボナッチ数列の螺旋

これを改めてSR400に重ねてみます。ミラーとハンドルの位置が分割線に重なりますね。排気管の接続位置もおよそこの点にあります。

SR400と黄金螺旋

SR400と黄金螺旋

まだまだあります。シートの位置で上下を分割すると、上と下がほぼ1:1.6シートの長さとタンクの長さをシート接続位置で測ると、これもほぼ1:1.6です。サイレンサーを含む排気系の長さは、ほぼこの正方形の長さになっていますね。

SRと黄金比の数々

SRと黄金比の数々

実は思いつきで黄金比のラインを重ねてみたのですが、まさかここまで精密に設計されているとは思わず、重ねた瞬間はゾクゾクしてしまいました。

でもこう考えた人もいるでしょう。「どのバイクもだいたい同じようになるんでしょ?」

では試してみましょう。

MT-07を重ねるとこうなりました。特別一致するポイントは見当たりません。

XSR900では、ハンドルとミラーの前後位置はこのラインにはまりました。それ以外は特になさそうです。

ホンダからCL250。ミラーの前後位置はだいたい近そうです。

GB350は、ミラーの上部が近そうです。前後位置もいい線いってそうでしょうか。

黄金長方形と一般的なバイク

黄金長方形と一般的なバイク

こうしてみると、ネイキッドバイクのハンドルとミラーの前後位置は、比較的近い位置に来やすいようです。それ以外はケースバイケースで、SRほど黄金比バランスの多い車両はなかなか見つかりません。黄金比はあくまで普遍的造形美の一例にすぎませんが、SRの造形美を支える要素の一つになっています。

デザインの好みは、人により、またその生きてきた時代や環境によって千差万別です。ここまでに紐解いたSRの一部分に表される緻密なデザインこそが、時を経過しても普遍的に美しいと感じ、愛される理由の一つでしょう。SRのフォルムを美しいと感じないはずがなく、実は初めからロングセラーが約束されていたと言えるかもしれません。

(2)細いラインの美しさ

SRは女性ライダーも多いですが、女性が乗るとよりデザインが完成されるようにも思います。160cmくらいの身長がちょうどバランスが良い、ということもありますが、女性の線の細さとSRの細さがマッチする、という面もあります。

SRは全体的に線が細く、タンクの幅が細いです。よく比較されるGB350と比べると、かなり違います。GBの方は全体的に力強い感じのフォルムになっていますね。タイヤもかなり細く、特にリアタイヤは今時この細さのバイクは小排気量以外なかなか見ないでしょう。

SR400のフォルム

SR400のフォルム

この徹底した細さが、SRのエレガントなイメージに貢献しています。美しすぎて鼻血出そうですね。

(3)仕上げの美しさ

仕上げの美しさにも妥協がありません。400cc空冷エンジンのフィンも美しいですが、マフラー、ミラー、メーターなどがメッキ仕上げになっていて、この光沢を眺めるのが幸せです。

SR400のメッキ仕上げ

SR400のメッキ仕上げ

他にも、大きめのお目々がかわいかったり、サイドスタンドが前斜めに出る感じなど、この辺もまた愛らしいですね。

SR400の丸目ヘッドライト

SR400の丸目ヘッドライト

いやー、素晴らしい。うちの子が一番かわいい。

2.鼓動にとらわれたヘンタイ

SRの醍醐味、それはザ・アナログな走行感覚。電子制御はありません。何もアシストしてくれません。バランサーなど振動を抑えるメカニズムもありません。それがむしろバイクとの一体感を高めてくれます。

できるだけ低回転を維持して走れば、何とも心地よい鼓動をSRと共有できます。回転を上げるとSRさんはご機嫌ナナメになってしまい、強烈な振動をたたき込んでくるので、機嫌良く走ってくれる2〜3,000回転キープが理想ですね。

SR400走行

SR400走行

SRの鼓動感は、これと同じものは現在ラインナップされているバイクでは味わうことが難しく、400cc以上の単気筒だからこその特徴で、250cc単気筒や、ツインエンジンなどでは味わえない感覚です。似たような、というレベルであればいくつか出てくるものの、SRの感覚に取り付かれた人たちは他では満足できないかもしれません。

例えば350ccのGB350は、全体の完成度が高いですが、バランサーで振動をとことん消していて、音で演出しているものの自然な鼓動を感じることはできません。

将来SRの心地よいエンジンを味わいたくなったとしても、その時には代わりになるものはなさそうなので、とりつかれてしまった人は手放さない方が無難です。

ちなみに、2019年以降の最終形SR400に装着される純正マフラーは音響室で徹底的に音作りされた貴重な逸品です。さすが楽器にルーツを持つメーカーだけのことがあります。楽器メーカーのヤマハとバイクなどのヤマハは別会社ですが、もともとはバイク部門も本体と同じ会社にあり、分離独立した経緯があります。シンボルマークは、同じ音叉をベースにしていながらほんのちょっと違い、ロゴタイプも重ねるとこのようにほんのちょっと違います。

SR400純正マフラーサウンドチューニング ©YAMAHA

SR400純正マフラーサウンドチューニング ©YAMAHA

そんな音にこだわるヤマハが作った純正マフラー。社外品マフラーに換えている人は、たまにちょっと純正マフラーに戻してみるのも乙な物かもしれません。

3.改造に突き進むヘンタイ

SRは長く販売されていたこともあり、パーツが豊富で、世に出回るSRのほとんどが改造車ではないかと思うほど、様々な車両が走っています。53-2中には原型をとどめていないものもあるようで、シートやハンドルあたりの改造が多いようです。

ちょっとインスタグラムを見てみましょうか。SR500も混ざっていると思いますが、エンジンとキックペダルからSRらしいものをまとめてみました。すでに原型がわからないものがたくさんあるので、もしかしたらSRじゃないものも混ざっているかもしれません。

https://www.instagram.com/p/Cse3hxShdyY/こちらはシートが変わっていますね。シート変更はよく見かけます。ノーマルシートのSRの方が少ないかもしれません。

https://www.instagram.com/p/Cse0WdHBqNh/シートがラクダっぽくなっています。こういう段付きシートのほか、シングルシートにしているものも見かけますね。

https://www.instagram.com/p/Cse8aPnBtl8/マフラーが結構下の方を通っています。地面に擦れそうですね。マフラーも純正を維持している個体は少なめでしょうか。

https://www.instagram.com/p/CsdaqpPph8F/これもマフラーが不思議な形になっています。そろそろ原型がわからなくなってきてますね。フロントブレーキがドラムのタイプになっています。

https://www.instagram.com/p/CsfO8OSpS37/このあたりももう車種判別が難しいです。

https://www.instagram.com/p/CsfYeBwpsJc/これは、一応SRと書いてあるので、たぶんSRなんでしょう。

https://www.instagram.com/p/CsOQiyZpowI/こちらは業者さんのようですね。シートが薄いですね。数分走ってケツが砕けそうです。

https://www.instagram.com/p/CsVqQ2mpDd8/こちらも業者さんのようです。もうエンジンしか原型が見えません。

https://www.instagram.com/p/CsZB5oPhof2/これもまた、フレームとエンジンだけの状態に新しい部品を組み上げたくらいのイメージですね。

https://www.instagram.com/p/CseIZAhhAng/オブジェっぽいですが、動きそうな雰囲気もあります。

https://www.instagram.com/p/CsbQQ28BFkK/おおおー。鎖巻いてありますね。さすがに動かなそうですが、どうなんでしょう。

ざっとピックアップしただけでこれくらい出てくるので、今までも町中でSRと気づかなかった車両とたくさん出くわしていたのかもしれません。やり始めるととことん原型をとどめないところまで進んでしまう人の割合が、SR乗りには多いのでしょうか。

4.キックが快感なヘンタイ

SRのキックが大好きな人も多数いらっしゃいます。SRは最後までセルモーターがつくことはなく、キックスタートのみで生産を終えました。

キックスタートは、慣れれば普通にかけられますが、ちょっと体力を使います。また、平地なら問題ないものの、傾斜があると勢いで転んだりする人もいるので、事情を知らない人と一緒に走るとちょっとまどろっこしいと思われるかもしれません。

SR400キックスタート

SR400キックスタート

キックこそがSRの醍醐味、という系のヘンタイさんは、SRにセルモーターがついたら、そんなのSRじゃない、という人も一定数いるので、SR乗りの間でも、キックネタは、激しい議論を避けるため、わざわざ振らない方が無難かもしれません。

キックを愛してやまない人は、右折待ちでエンストしようが気にならない、高速キックで復帰できる熟練スキルと高度なメンタルを持った尊敬すべきベテランさんたちだと思います。

5.手がかかるほどカワイイ♡のヘンタイ

SRは50年前に設計されたバイクですが、細部がアップデートされているものの、大筋では昔のまま最終モデルまで生産されています。

走らせてみるとわかりますが、フレームのヤワさやトランスミッションのレスポンスなど、古さを感じます。普通に止まってニュートラルに入れた後、1速に入らない頻度が高かったりと、現在のカチッとした仕上がりに比べるとどうしても残念なところが目につきます。

現代のバイクの感覚から端的にいうとポンコツバイクで、同じ400ccではホンダCB400スーパーフォアなどと比べると別のバイクどころか別の乗り物いや、別の種類の機械それどころか、異世界の物体かというと言い過ぎですがそれくらいの違いと言いたくなるほどSRのポンコツ感は群を抜いています。

ただ、そのポンコツ感がまたかわいかったりするんですよね。今日の調子はどうかなーとSRに聞きつつ、機嫌を取りながら走る、というのがまたよりSRとの距離を縮めてくれるのかもしれません。

「俺のSRは俺がキックしないとエンジンかからないんだよ」というアレですね。完全にヘンタイですが、SRのことはだんだん生命体のように認識していくので、付き合いが長くなるほど2次曲線的に愛情が深くなっていくのでしょう。実際キャブ車はオーナー以外かけづらい車体もあるようです。

電子制御バリバリの現代バイクとは違い、機械だからこその味わいと親近感は、やはりオーナーにならないと想像しにくいかもしれません。

全部に当てはまる、MT、マスターオブトルクならぬ、マスター・オブ・ヘンタイの称号を得られる人も多く存在しそうですが、だいたいどれかには当てはまるのではないでしょうか。