2気筒はなぜバカにされるのか

2気筒エンジンは、なぜか軽視されがちな存在です。「4気筒こそ本物」という声もありますが、実際にはそうとは限りません。そこで今回は、2気筒バイクが“突っ込まれやすい”理由や、その特徴について整理してみたいと思います。

1.2気筒のネガティブな印象、(1)音に個性が感じられにくい

MOTO GUZZI V7

MOTO GUZZI V7

2気筒エンジンは、「音があまり良くない」と言われることがあります。多くのモデルでは「ダダダダッ」と連続するようなサウンドで、単気筒のようなドコドコとした鼓動感も、4気筒のようなヒューンと伸びる高音もありません。そのため、印象として“中途半端”と感じられやすいのです。

一部では「耕運機みたい」という声もありますが、実際の耕運機はもっと荒々しく力強い音を出します。むしろ、2気筒はそれよりも穏やかで控えめな印象の音といえるでしょう。

もちろん、すべての2気筒がそうではありません。例えば、大排気量のVツインエンジンなどは深みのある重低音を響かせ、4気筒にも劣らない迫力を持っています。また、単気筒の鼓動感も400cc以上の排気量がないと感じにくいことから、2気筒が特別に“劣っている”とは言い切れません。

それでも「2気筒=ダダダ」というイメージが定着してしまったのは、音の印象に特徴が薄いモデルが多かったことが一因と考えられます。音の魅力はエンジン設計や排気レイアウトによっても大きく変わるため、単純に気筒数だけで優劣を語るのは早計です。

(2)価格がリーズナブルであることへの誤解

KAWASAKI ZX-4RR

KAWASAKI ZX-4RR

4気筒バイクは、どうしても価格が高くなりがちです。その理由は単純で、エンジンの構造上、気筒数が増えるほど部品点数が増え、製造コストも上がるからです。一方で、2気筒や単気筒のバイクは構造がシンプルな分、コストを抑えやすく、比較的リーズナブルな価格で提供される傾向があります。

本来であれば「安い=コスパが良い」というポジティブな評価につながるはずですが、残念ながら一部の“マウント勢”にとっては、これが逆効果になることがあります。彼らの中には「2気筒なんて安物だ」「4気筒こそ高級で本格的」といった偏見を持つ人もいます。まるで、「自分は高いバイクに乗っているから偉い」と言わんばかりの態度です。

もちろん、どんな世界にもそうした価値観の人はいます。しかし、価格が抑えられているのは、技術的な簡略化や軽量化によるものであり、性能が劣るという意味ではありません。むしろ、2気筒バイクは燃費やメンテナンス性に優れ、日常使いでは非常に合理的な選択肢といえます。

つまり、2気筒がリーズナブルであるという点は「欠点」ではなく「長所」なのです。コストパフォーマンスの高さを誇れるのが、2気筒バイクの魅力のひとつだといえるでしょう。

(4)鼓動感が少ないと感じられる理由

2気筒エンジンは、単気筒のような「ドコドコ」とした鼓動感を感じにくいといわれます。その理由は、エンジンの燃焼間隔が単気筒に比べて短いためです。1回の爆発ごとの間が詰まっているため、振動のリズムが細かくなり、結果として“穏やかすぎる”印象になるのです。

このため、低回転域でも単気筒のような独特の揺らぎやリズムを感じにくく、全体的に特徴が薄いと捉えられることがあります。特に中排気量クラスの並列2気筒エンジンでは、その傾向が強く見られます。

ただし、すべての2気筒がそうというわけではありません。排気量の大きいVツインエンジンでは、力強い爆発感や重低音の響きがあり、まさに“鼓動するエンジン”と呼ぶにふさわしいフィーリングを味わえます。代表的なのがハーレーなどの大排気量Vツインモデルです。

一方で、多くの2気筒エンジンはよりバランス重視の設計となっており、静粛性や扱いやすさを優先しています。その結果、鼓動感よりもスムーズさが際立つ傾向にあるのです。

2.2気筒以外のエンジン形式、(1)単気筒

YAMAHA SR400

YAMAHA SR400

単気筒エンジンは、構造がシンプルで軽量なうえに、独特の鼓動感があることで人気があります。排気量が大きめのモデルでは、1回ごとの爆発がしっかりと伝わり、ライダーが「エンジンと一体になって走っている」感覚を味わうことができます。そのため、単気筒に対して否定的な意見を持つ人はあまり多くありません。

一方で、いわゆる“バイクをディスる”ような発言をする人の多くは、大排気量の4気筒や多気筒モデルのオーナーに多い傾向があります。単気筒モデルは排気量帯が異なるため、彼らの比較対象になりにくく、マウントの対象にもなりづらいのかもしれません。そもそも1,000ccクラスの単気筒バイクは存在しないため、競合構造そのものがないといえるでしょう。

ただし、例外もあります。たとえば、スポーツ性を重視したフルカウルバイクの場合、単気筒エンジンであることが“ネガティブ”に捉えられることがあります。過去の代表例としては、ホンダ「CBR250R」が挙げられます。また、スズキの「ジクサーSF250」も単気筒モデルですが、こちらは“単気筒だから”というより、“スズキだから”とネタ的に扱われるケースが多い印象です。

もっとも、スズキファンはそのあたりの風評に慣れており、むしろ「耐性がある」とも言えるでしょう。単気筒の魅力を理解しているライダーは、他のバイクを否定することも少なく、逆に2気筒をディスるようなこともほとんどありません。つまり、「単気筒乗り=バイクそのものを楽しむ人」という側面が強いのです。

(2)6気筒

6気筒エンジンを搭載したバイクは、まさにロマンの象徴といえます。現在、市販モデルとして代表的なのがBMWの「K1600GT」および「K1600GTL」で、どちらも直列6気筒エンジンを採用しています。BMWは四輪モデルでも「M3」シリーズなどに直列6気筒を搭載しており、その技術力を二輪にも応用しているのが特徴です。

そもそも直列6気筒エンジンは、自動車でも採用例が限られています。たとえば、現行車で直6を積むモデルは「Mercedes-AMG Eクラス」や「マツダ CX-60」「CX-80」など、ごくわずかです。とくにマツダは、この時代に新たに直6を開発した数少ないメーカーであり、その独自路線ぶりは“変態的なまでのこだわり”と評されることもあります。こうした姿勢は、独創性で知られるヤマハに通じるものがあります。

一方、ホンダの「Gold Wing」は、水平対向6気筒エンジンを採用しています。水平対向エンジンは、四輪ではポルシェやスバルの一部モデルで知られていますが、スバルはすでに6気筒モデルをラインナップから外しており、現行で水平対向6気筒を生産しているのは、実質ポルシェとホンダ(Gold Wing)だけといえるでしょう。

6気筒エンジンは、その排気量・価格ともに圧倒的な存在感を放ちます。もはや“マウント”の対象になることもなく、性能や所有感の次元が一段上の領域にあります。そのため、6気筒バイクは多気筒信仰の終着点とも呼べる、まさに「夢のエンジン」なのです。

(3)3気筒

YAMAHA XSR900

YAMAHA XSR900

3気筒エンジンを搭載したバイクは、現在では比較的珍しい存在です。代表的なモデルとしては、ヤマハの「MT-09」や「XSR900」、そしてトライアンフの一部モデルが挙げられます。2気筒や4気筒ほどのラインナップはなく、独自の立ち位置を持つエンジン形式といえるでしょう。

3気筒エンジンは、2気筒のトルク感と4気筒のスムーズさの“いいとこ取り”をしたような性格を持っています。しかし、2気筒を軽視するような層の多くは、そもそも3気筒に乗ったことがない人がほとんどです。そのため、3気筒を批判したり、比較してマウントを取ったりするようなことはあまり見られません。

むしろ、3気筒バイクを所有した経験のある人は、多くの車種やエンジン特性を理解している、いわば“経験豊富なライダー”が多い印象です。そうした人たちは、他のバイクを頭ごなしに否定するようなこともなく、それぞれの良さを理解したうえで楽しんでいるケースが多いです。

結果として、“気筒数マウント”のような議論に3気筒が巻き込まれることはあまりありません。これは、3気筒の希少性や、中間的なバランスを持つ特性が、バイク文化の中で一種の“平和的ポジション”を築いているからかもしれません。

(4)4気筒

4気筒エンジンは、多くのライダーにとって“理想的なエンジン構成”とされることが多く、これを否定する人はあまりいません。むしろ、2気筒を軽視するような意見の多くは、4気筒を好む層、いわゆる“4気筒信者”によるものといえるでしょう。「4気筒こそが本流」「2気筒は下位グレード」といった構図が、バイク界ではある種の“定番”として定着しています。

ただし、4気筒にも弱点はあります。低排気量の4気筒モデルでは、単気筒や2気筒に比べてトルクの立ち上がりが遅く、出だしがややもっさりと感じられることがあります。また、構造上エンジンが重く、車体全体の重量も増えるため、扱いやすさという点では不利になる場合もあります。

4気筒エンジンは高回転域でこそ真価を発揮する“回してなんぼ”の設計であり、そこが魅力でもあり、難しさでもあります。しかし、日常的な走行や街中でのストップ&ゴーが多い場面では、燃費の悪化や熱のこもりやすさといったデメリットも目立ちます。特に真夏のライディングでは、排熱による熱気がライダーを直撃し、快適性を損なうことも少なくありません。

単気筒や2気筒に比べて、4気筒は燃費の変動幅が大きく、環境によっては大きな差が出ることもあります。また、エンジン本体が横方向に広く、熱がこもりやすい構造であるため、冷却効率の面でも工夫が求められます。こうした点から、4気筒バイクは「高性能だけど暑くて燃費が悪い」といったイメージを持たれることもあります。

その意味では、2気筒をバカにする4気筒乗りがいる一方で、2気筒側は「まあ、あの人たち暑そうだな」と哀れみの目で見ている、という構図もあるかもしれません。もっとも、実際のところ多くのライダーは、他人のバイクを批判したり、比べて優劣を語ったりするほど暇ではありません。どんなエンジン形式であっても、自分のバイクを楽しむことこそが、本来のバイクの魅力なのです。

3.2気筒の素晴らしいところ

ここまで、2気筒バイクが誤解されがちな理由を見てきましたが、実際のところ2気筒には数多くの魅力があります。その特徴を改めて整理してみましょう。

まず特筆すべきは、2気筒の加速性能です。ミドルクラス以上の2気筒エンジンは、低回転からトルクが太く、発進時の瞬発力に優れています。街中でのストップ&ゴーや、峠道での立ち上がり加速では、4気筒よりも軽快に感じられることが多いです。とくにホンダの「CRF1100L アフリカツイン」のような大排気量2気筒モデルは、出足の速さで高評価を得ています。

一方で、4気筒エンジンは高回転域でこそ真価を発揮しますが、発進直後のもたつきが指摘されることもあります。この点で、2気筒は“実用的に速い”エンジンといえるでしょう。単気筒も400ccクラス以上になれば瞬発力がありますが、選択肢の少なさを考えると、バランスの良さでは2気筒が上回ります。

2気筒バイクのもう一つの魅力は、その軽さです。たとえば、ヤマハ「MT-07」は700ccクラスながら180kg台という驚異的な軽量設計です。比較対象となるホンダ「CB650R(4気筒)」は約205kgと20kg以上重く、この差が扱いやすさや加速レスポンスに大きく影響します。

軽量であることは、取り回しのしやすさやコーナリング性能の向上にも直結します。そのうえ、燃費性能にも貢献するため、日常の足からツーリングまで、幅広いシーンでメリットを実感できるでしょう。

2気筒は部品点数が少ないため、4気筒よりも製造コストを抑えやすく、価格も比較的リーズナブルです。もちろん、すべての2気筒が安価というわけではありませんが、コストパフォーマンスの高いモデルが多いのは確かです。

さらに、2気筒エンジンは250ccから1,000ccを超えるクラスまで、幅広い排気量帯に適しています。300cc前後では街乗りに最適、700〜900ccではツーリング性能が高く、1,000ccクラスではパワフルかつ安定した走行を楽しめます。つまり、実用性と汎用性の両立という点で、2気筒は非常に優れた構成なのです。

SUZUKI SV650X

SUZUKI SV650X

2気筒の中でも、Vツインエンジンは独特の味わいがあります。270度クランクの並列2気筒もVツインに近い特性を持ちますが、高回転域の伸びや鼓動感ではやはりVツインが一枚上手です。下から上まで力強く、滑らかに回るフィーリングは、多気筒にはない魅力です。

Vツインの魅力を知るライダーほど、2気筒の奥深さを理解しており、気筒数で他者を見下すような考え方はしません。2気筒を軽視する人がいるとすれば、それは単に経験が浅いだけのことです。実際にさまざまなバイクを乗り継いできたライダーほど、2気筒の良さをしみじみと実感しているはずです。

2気筒の魅力は、スペックだけでなく、ライダーの姿勢にも表れます。「排気量マウント」「気筒数マウント」「価格マウント」など、他人と比較して優越感を得ようとする風潮がありますが、そうしたものに真剣に取り合う必要はありません。自分が好きなバイクを選び、心から楽しむことこそが本質です。

中には、「俺はバイクを5台持っている」と台数を誇る人もいます。しかし、台数が多いこととバイクの楽しみ方の深さは必ずしも比例しません。2気筒を選ぶライダーは、そうした“マウント合戦”とは一線を画し、自分のスタイルを大切にしている人が多いのも特徴です。

このように、2気筒バイクは速さ・軽さ・実用性・フィーリングのバランスに優れた存在です。そして、それを理解して乗る人こそが、真にバイクを楽しむライダーといえるでしょう。

2気筒バイクは、しばしば誤解されたり軽視されたりしますが、実際には多くの魅力を備えています。加速の鋭さ、軽さによる扱いやすさ、そしてコストパフォーマンスの高さなど、日常からツーリングまで幅広いシーンで真価を発揮します。

また、Vツインをはじめとした独自のフィーリングも大きな魅力です。スペックだけでなく“乗って楽しい”という感覚こそが、2気筒バイクの本質といえるでしょう。

他人との比較やマウントではなく、自分に合ったバイクを楽しむこと。それこそが、ライダーにとって最も大切なスタイルです。2気筒を選ぶことは、実は理にかなった選択であり、バイクを心から楽しむための賢い選び方なのです。