ずっぽり深い、ミドルツインの蟻地獄

オーナーには通な人も多いミドルツイン、その魅力とメーカーごとのラインナップを紹介します。

1.ミドルツインバイクの特性

(1)瞬発力

ミドルツインの魅力として最初に挙げられるのは、抜群の瞬発力。低回転トルクが太いモデルが多く、4気筒エンジン車より発進時の蹴り出しが強いので、スタートダッシュを爽快に駆け抜けられます。

SUZUKI GSX-8R

SUZUKI GSX-8R

高めのギアの低回転でも、アクセルをひねればドドドっと加速できるので、不意に信号が黄色に変わった時など、瞬発力を求めるシーンで、ストレスなく走れます。

高速道路では、6速固定での追い越しも楽にいけるので、この瞬発力のおかげで、下道から高速まで、どこでも走りやすいことが、ミドルツインの大きな魅力となっています。

(2)軽い

4気筒エンジン車と比べて、エンジンまわりが軽いため、車重が抑えられていることも魅力です。

200kg以下のモデルが多く、重い物でも特殊な物以外は200kg前後くらいまでで、取り回しの不自由さも少なく、軽快な走行感覚の特性になっているものが主流です。

参考までに、普通二輪教習車として一般的だった、ホンダCB400SFの教習車仕様、CB400SF-Kの車重は207kgです。どちらかというとこれが普通二輪教習車というのが、間違っていると言えなくもないですが、ミドルツインは中型教習車より軽いので、大抵の人は気楽に感じると思います。

ちなみに新しい普通二輪教習車のNX400Lは、201kgなので、やはりどっこいどっこいか、より軽いミドルツインも多くなっています。

(3)燃費がいい

おおむねどのモデルも走行性能にしては燃費が良く、メーカーのスペック上でもWMTCモードで、リッター25km前後です。実際に走らせてもおよそそれくらいで、走行条件によっては30くらいを記録するものもあります。

国内モデルではほとんどがレギュラーガソリンなのも、経済的でうれしいですね。ただレギュラーの4気筒車、ホンダCB400SFやカワサキZX-4Rより、ハイオクのミドルツインの方が、燃料代は安いので、いずれにしても経済的です。

タンク容量は13L、14Lくらいが多く、その場合は航続距離は300km台前半と、気持ち短めなので、気になる人はアドベンチャー系モデルなど、タンクが大きいものを意識的に選ぶと良さそうです。

(4)鼓動感のあるモデルも

ミドルツインは主に直列エンジンで、いくつかV型も残っています。Vツインの現存モデルたちは低回転でパルスを感じられるので、こういったモデルは2気筒の粗さが、逆に心地良い体感となっていて、ファンの人も多いでしょう。90度Vツインは回転を上げると、振動が消えていくような感覚になるので、これもまた面白いです。

V型エンジンのSUZUKI V-Strom650

V型エンジンのSUZUKI V-Strom650

直列エンジンのミドルツインは、クランク角270度が主流で、Vツインと似たフィーリングを、体感できるものもあります。

一部には180度、360度のものもあり、それらも含めると様々な味が楽しめるのも、ミドルツインのおもしろさです。

小排気量は単気筒がマッチ、排気量400ccから800ccくらいは2気筒がバランス良く、それ以上は4気筒がちょうど良さそうですが、ミドルツインは、性能、走りやすさ、コストなどの面で、日本の環境にちょうどいいバイクとなっています。

2.スズキのミドルツイン

ここから各社ミドルツインを紹介しますが、一応900cc前後までミドル扱いにしていきます。

(1)GSX-8R・8S・V-Strom800

スズキの775ccシリーズ、GSX-8S、8R、V-Strom800は、2023年に登場した新しいモデルです。全てが新設計となっていて、ストファイの8S、フルカウルの8R、スポーツアドベンチャーツアラーと名乗るV-Stromと、好みに応じて選べます。

SUZUKI GSX-8S

SUZUKI GSX-8S

エンジンは特許取得済みの、スズキクロスバランサーを搭載していて、振動がかなり少なく、サスペンションの品質も良いので、ワンランク上の上質感ある走りを実現しています。

ただしその分鼓動感などはあまり感じず、排気音も静かなので、低回転でドコドコ言わせたい人は、別のバイクをオススメします。

筆者は8Rに1年ちょっと乗っていますが、これ以上ない高次元のバランスに、いつも感動しています。

(2)SV650・SV650X・V-Strom650

スズキの645ccシリーズ、SV650、X、V-Strom650。

絶滅危惧種の90度Vツインエンジンを搭載、価格設定がリーズナブルなので、お手軽にVツインフィーリングを堪能できる、素敵なバイクとなっています。控えめながらもアイドリングから鼓動感があり、エンジンを回していくほど、スムーズかつ元気なレスポンスは、クセもなくおいしいところだけ持っていったかのような、仕上がりです。

SUZUKI SV650

SUZUKI SV650

Vツインのせいもあってか、近い排気量帯、車体サイズのバイクより、ホイールベースがやや長め、車重がやや重めと、スペックだけ見るとライバルに目を奪われがちですが、そこはスズキ、いぶし銀のような魅力を詰め込んでいるのはさすがです。

昨今の排ガス規制によって、そろそろなくなるといつもウワサされつつ、今のところ生き残っています。来年の規制を通すのかどうなのか、継続のウワサもちょっとずつ聞くようになってきたので、もしかすると残るのかもしれません。

V-Strom650はメーカーが現行の注文受付を、終了しているようで、継続するのか廃番になるのか動向が気になります。

筆者はセパハンで、実は前傾ハードめなSV650Xに、最近まで乗っていましたが、ヘタレなので半日くらいで家に帰っていました。それでもまた乗りたくなる魅力的なバイクです。

3.ヤマハのミドルツイン

(1)MT-07・XSR700・Ténéré700・YZF-R7

ヤマハの688cc、MT-07は、ファミリーにXSR700、Ténéré700もあります。MT-07はクラス最軽量レベルの183kg、ホイールベース、トレールが短く、曲がりやすいマシンになっていて、パワーのある中型マシンというイメージです。

YAMAHA MT-07

YAMAHA MT-07

派生モデルのXSR700は、丸目ネイキッドのネオクラシック系モデルで、たまにアップデートしますが、マイナーチェンジの年で年間400台くらいなので、滅多に見かけることのない、プチレア車になっています。

Ténéré700はビッグオフローダーで、シート高875mmの高さが、よくネタにされるバイクです。ヤマハの700エンジンは、まるでMT-07ほかその他が、派生モデルであるかのごとく、テネレにこそベストマッチと思える相性の良さで、迫力あるマフラー音、大きいフロントタイヤからの、オフロードらしい旋回感覚など、舗装路も普通に楽しい、妥協なき完成度を誇ります。

毎年500〜600台の計画で、XSR700よりは出荷されているようです。筆者は発売当初からテネレが気になりつつ、XSR700を買って乗っていますが、そろそろテネレ行っとこうかと、いつも悶々としています。

YZF-R7は本格スポーツ系モデルで、MT-07とは減速比なども違い、スポーティーなセッティングになっています。ファミリーに乗っていると、「このエンジンでフルカウルスポーツは…」、と思ってしまいがちですが、セッティングが全然違うので、実際に乗ってみるとよくフィットしているのがわかります。ついつい回したくなる特性で、知らなければ同じエンジンとは気づきにくいでしょう。

MT-07ファミリーは、2025年モデルで電子制御スロットル化して、大幅アップデートされました。テネレも同様ですが、YZF-R7はアップデートお預け、XSR700はそもそもアップデートされるのか謎です。

(2)BOLT

生産終了したもののまだWebサイトに載っている、クルーザーのBOLTは941ccの、60度Vツインを搭載しています。

YAMAHA BOLT

YAMAHA BOLT

派生モデルにはセパレートハンドルのCスペック、スクランブラースタイルのSCR950など、なかなかに攻めたモデルもありました。

バンク角60度なので90度とは違いますが、低回転の鼓動感と高回転のスムーズさは健在で、こんなスタイルでありながら、スポーティーにキビキビ走れる独得のバランスになっています。

ちなみにSCRは時速70kmでハンドル振動のため、ミラーが全く見えなくなり、80km以上になると逆にピタッと止まって視界が快適になります。

4.カワサキのミドルツイン

(1)Ninja650・Z650・Z650RS

カワサキの649ccシリーズ、Ninja650、Z650、RS、Ninja650は割り切ったツアラー仕様で、ハンドル爆上げの快適姿勢、ラバーステップ装備、純正積載グッズもたらふく用意と、ヤマハのように、「フルカウルバイクはハイパー前傾でないといかんのだ」、という姿勢はみじんも感じさせません。

KAWASAKI Z650

KAWASAKI Z650

Z650はストファイ版、RSは丸目クラシック系です。どのモデルも800ccクラスのライバルと比べて、ややお高く感じる設定になっているので、販売台数は少なめになるかもしれません。

エンジンはこのクラスでは珍しい180度クランク、直列2気筒となっています。

(2)W800

RSシリーズよりクラシック感を追求した、Wシリーズの773ccモデル、W800、最近230ccのW230が追加されて、Wファミリーを形成しています。

エンジンは360度クランク直列2気筒と、650に次いで珍しめのクランク角が、採用されています。

KAWASAKI W800

KAWASAKI W800

そろそろなくなるだろうとささやかれ続けていますが、来年の排ガス規制を通すかどうか気になります。筆者は数年前から買おうかな、どうしようかなと思いつつ、テネレを通過してXSR700に行き着きましたが、ちょっとまた試し乗りでもしてこようかと思っています。

5.ホンダのミドルツイン

(1)NC750X

ホンダのツアラーモデル、745ccのNC750X、以前のNC750Sはだいぶ安かったところ、Xに集約されてだいぶ高くなりました。

DCTも用意されていて、キャラクター的にDCTを選ぶ人が多いようです。

HONDA NC750X

HONDA NC750X

大型二輪教習車にNC750Lというモデルが、採用されていて、なじみがある人も多いかもしれません。普通二輪教習車のCB400SF-Kより、扱いやすいという人が多く、あべこべな感じになっていました。

普通は燃料タンクの位置が、容量23Lのラゲッジボックスになっていて、ヘルメットも入ります。その分給油口がリアシート下にあって、積載していると燃料が入れづらい、ちょっと変わった仕様になっています。

(2)CB750HORNET・TRANSALP

アドベンチャーの754ccTRANSALP、新たにストファイのHORNETも発売されました。ETC標準装備で、オートキャンセルウィンカーも搭載されている、なかなかに素敵なモデルです。

HONDA XL750 TRANSALP

HONDA XL750 TRANSALP

スズキの800とガチバトルなスペックで、どうなるか気になるものの、販売計画台数は500台と、それほど売れるつもりでもないようです。色もシルバーと黒だけなので、売る気自体あまりなさそうにみえなくもありません。

6.モトグッツィのミドルツイン

(1)V7

7なのに853ccのV7、空冷縦置きVツインエンジン搭載の、現行ミドルツインでも個性的なバイクです。

縦置きエンジンの最高に心地良い旋回感覚と、低回転の鼓動感、Vツインらしい高回転のスムーズさと、ミドルツインにおいて他を選ぶ理由が見当たらないほどの、唯一無二の優れた特性を持っています。

MOTO GUZZI V7

MOTO GUZZI V7

モトグッツィは最近、水冷縦置きVツインエンジンを開発していて、水冷への移行を進めています。V7ももうすぐ水冷に移行するのか絶版になるのか。

筆者はStone Tenから、レッドストライプツイントーンの、Specialに乗り換えました。

7.RoyalEnfieldのミドルツイン

ロイヤルエンフィールドの650シリーズ。

INT、CONTINENTAL GT、SuperMETEOR、SHOTGUN。

とスタイル違いがどんどん増えています。

Royal Enfield Continental GT

Royal Enfield Continental GT

INTとSHOTGUNは普通のネイキッド系、CONTINENTALはセパハンのカフェレーサースタイル、SuperMETEORはクルーザー、新しく出たBEARはスクランブラースタイル、という棲み分けになっているようです。

8.Triumphのミドルツイン

SPEED TWIN 900。

2025年モデルで大幅アップデートしました。フレームから新しくなったそうで、シートやサスペンションも変更されて、全く別物に一新されています。メーカーのコメントを平たくまとめると、軽快でスポーティーな方向に変更を加えた、ということで良さそうです。もともとシート高765mmとだいぶ低かったところ、780mmと少し上がりました。

Triumph SPEED TWIN 900

Triumph SPEED TWIN 900

SCRAMBLER 900もありますが、こちらはまだアップデート情報がありません。

9.DUCATIのミドルツイン

DUCATIは900cc前後の2気筒モデルが多く、890 ccには、Panigale V2、STREETFIGHTER V2、Multistrada V2、などがあります。

DUCATI Panigale V2

DUCATI Panigale V2

Panigaleは先代モデルから17kg軽量化されて、燃料を除いた装備重量が179kgと、900cc前後にしては軽量級に仕上がっています。

937ccに、Monster、SUPERSPORT、Hypermotard。

これらもVツインですが、DUCATIはLツインと呼んでいます。パニガーレもエンジンを同じような角度で、積んでいるように見えますが、VとLと呼称を分けている理由がずっと気になっています。

803ccの、Scramblerシリーズ、こちらもVではなくLツインと呼んでいます。

Scramblerはスタイル違いでいろいろありますが、現在はちょっとバリエーションが減って、ICON、NIGHTSHIFT、FULL THROTTLE、などがあります。

ミドルツインもろもろを紹介しましたが、楽しく乗れて利便性も高いので、未体験の人はぜひ体験してみてください。